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世界樹の短文「今日のレイヴナズ7」

さて、件のクエストのために、迷宮に2NDパーティーは下ったのだが、どうも俺が書いたマップが流暢な筆運びのために、浅学な彼らには判読が難しいらしく、えー、とどのつまり戦闘にも参加できない道案内として同道するハメに。
まあ、これもギルド創設者の使命とすれば自己納得。

「このあたりの矩形通路をあの亀さんは徘徊してるはずなんだけどな」
蒼ノ樹海は相変わらず落ち着かない。蒼いってのはなんか。
「しかし、もう少々剛健な差し料は置いてないのか?あのシリカ商店には」
ぬえひめが先ほど仕留めたガードアントの体液をカタナから拭いながら、不満げにカタナ眺める。
「クエストでもらった物に不満言わないの。あのお姉さん怒らしたら多分恐いわよ」
レジーナが次の戦闘に備えて、バッグの中の薬剤類を確認しながら、ぬえひめを窘める、と云うよりは単純に注意喚起だろう。
「それに、シリカ商店の批判はエトリアでは禁句よ。
 ソレを口にして消えていった冒険者の噂を聞かないでもないわ。」
結局自己保身でもあったようだ。
「亀ーっ!!どこだ亀ーっ!!!」
マクロが叫び始めているが、誰も相手にしないのはいつもの事だ。
「……」
「……」
ソーンは呆れて、ヴァセレは珍しいものでも見るようにこっちを見ている。
「っと、ご歓談中申し訳ないけどあのうにょうにょ動く影って、FOEだ」
丁度通路の影の部分から、おそらく目指す甲羅の持ち主であるFOE”永劫の玄王”がその巨体を現した。

ぬえひめが上段の構えに移行する。
丁字の形に足先は揃えられ、天に伸びた両手には長大な大太刀が握られている。
「おりゃっ!」
マクロが玄王に切りつけるが、硬い甲羅もさることながらその分厚い皮膚で刃は途中までしか入らない。
ソーンの振るう鞭も同様に乾いた音ともに弾かれてしまい、思うようにダメージは与えられない。
「歯痒いったらないわね、このFOEは」
ソーンが悔しさに歯噛みする。
「長期戦は覚悟しておいた方がいいかもね」
レジーナが医術防御を施した、直後―。
玄王の嘴状の口が開いた。
「やば!ブレス来る!」
マクロが慌てて剣を眼前に構える。
玄王の喉が一瞬膨らんだように見えた瞬間、軋むような音を立てて棘状の結晶を含んだ氷のブレスがパーティーを襲った。
「ぐあーっ!!っって?…ん?それほどでもないな??」
勢いで声をあげていたらしいマクロが、掠り傷程度の自分の体を見て不思議な顔をしている。
「なんのための医術防御だと思ってるの?」
とはもちろんレジーナの声だ。
「それに、たぶん次の斬撃からは多少通るぞ」
ぬえひめが切りかかる隙を伺いながら、マクロを促す。
「おしっ!追撃なら任せろ!」
チェイスファイアの構えを取る。
「…まあ、それもそうなのだが」
ぬえひめがめんどくさそうな顔をする。
「ん?」
マクロは気付いていないようだ。
「呪言が効いてるのっ!」
ソーンが言いざまに放ったヘッドバインドが玄王の頭を縛り付けた。
「これでブレスも封じたわけだし」
ソーンがやっと楽しそうに笑った。
「え?だって俺には全然聞こえなかったし…」
「…聞こえてたら掛かってるって」
ヴァセレがぼそっと突っ込んでいる??
「下々の者、膳立てご苦労っ!」
ぬえひめが勢いよく玄王に駆け寄ると、一気にカタナを振り下ろす。
刃には焔が赤々と纏わり付き、玄王のその身を纏う冷気ごと斬撃が切り裂いた。
「うわっ、早いって、チェイスっ!!」
慌てて駆け出したマクロのチェイスファイアがなんとか間に合った。
「下々って…」
ソーンが怒りに震えている。
嗚呼また火種ですか。
あの、みなさん。
あちらの亀さんまだまだ元気ですけど。
あ、戦闘部外者は引っ込んでろって?
あ、はいワカリマシタ。
そんな今日のレイヴナズ。

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