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世界樹の短文「今日のレイヴナズ6」

亀。
亀亀。

「まあ、まだレベル上げから二人ほど帰ってませんが。
この度我らレイヴナズにもカースメーカーの仲間が加わりました。
ヴァセレさんです、ご挨拶を」
金鹿の酒場、夜。
最初は5人でなんとか廻していたギルドにも、徐々に第二パーティーが育ってきて、ダンジョンの状況にあわせて組み合わせを変えることも出来るようになってきていた。
俺からの紹介に応えて、ふよふよと椅子から浮き上がるカースメーカーのヴァセレ。
千切れたフードの中からのぞき見えるまだ幼さが残る顔には、赤々と呪式の紋様が刻み込まれている。
「よろしく……」
「………。」
「……っと言う事で、今のところは第二パーティーに入ってもらう感じで、レベル上げという事で」
「はいはーい!まーかせてー!」
バードのフォルトンがテーブルに片足をかけて、自慢のリュートを掻き鳴らす。
「てめっ!人が飯食ってるときに、テーブルに足乗せるんじゃねーよ!」
ソードマンのマクロがフォルトンの足を力任せに払いのける。
派手な音を立ててひっくり返るが、酒場の喧騒の中ではいつもの事だ。
「なんかイロモノばっかり押し付けられてる気がするんだけど…」
ダークハンターのソーンが、髪の毛を気にしながらヴァセレを品定めするようにねめつけている。
「まあまあ良いではないですか、ばらえてぃーに富む布陣の方が何かと効もあるやもしれませんぞ」
ブシドーのハカマダがその犬顔をくしゃくしゃにしながら、蟹の脚らしきものにむさぼりついている。
あの蟹の肢…、いや知らない方が良い事もある。
「あっ!いたいた」
手を振りながら入ってきたのは、バードのサイニャと―
「…ワタシの剣はカワズを斬るものではないのに……」
少しばかり不機嫌なブシドーのぬえひめ。
「ようやく全員揃ったので、えー明日の予定を」
俺はおもむろに、羊皮紙を取り出した。
昼間のうちに酒場のお姉さんから受けていたクエストの内容が書かれている。
「どうもあの亀の甲羅が御所望らしい」
あの亀とは、氷のブレス吐いて来るあの亀さんだ。
「おお!先ほど見かけたぞ、アレはなかなか切り応えがありそうな図体をしていたが」
ぬえひめの眼がさらさらの前髪の間からギラリと光った。
「で、今回は2NDパーティーメインでこのクエストをやってもらおうかなと考えてる」
「良し!任せろ、このところ両生類と昆虫ばかり斬っていたので腕が鈍る所であったぞ!」
ぬえひめはさっそく段平を抜いてかざしている。
「ひめさんの卸し焔は有効属性だから、メインでがんばってもらうとして、医術防御でレジーナお守役」
「了解ー」
もうすっかり出来上がっているので、覚えているかは不安だし明日起きれるのかも怪しいが、機嫌よくレジーナからは返事が返ってきた。
「レジーナ入るから、回復系は全部任せるとして、マクロとソーンも前線―」
「おう!FOEとやるときって燃えるんだよなあっ」
マクロもぬえひめと同じ系統だ。
「結局力押しじゃない」
ソーンだけは乗り気ではないみたいだ。
「んで、早速だけどヴァセレにも後衛で入ってもらう」
ヴァセレは中空を見つめながら無言でゆっくりと頷く。

『熱血バカ×2+二日酔い確定+女王様+暗黒ふよふよ』

「絶妙なのか、微妙なのか」
顔ぶれを見てヒーセ男爵がちょっと心配そうな顔をする。
「ワタシも徐々にレベル戻さないといけないかな」
カスカ師匠は後半使わなくなってきた毒の術式を落とすために休養を取った直後。
「じゃあ、誰かと代わってLV上げがてら行く?」
「うーん?」
チラッと亀退治メンバーを伺う。
『斬る斬るぞっ!
 暴れるぞ!』
マクロとぬえひめは既に明日のシュミレートを始めているようだ。
ソーンはまだじっとヴァセレを睨んでるし、当のヴァセレはぼうっとしている。
「…今回は遠慮します」
メガネがキランと光った。

「ねえ、貴女」
ソーンがいつの間にかヴァセレのすぐ近くににじり寄ってきていた。
「……。」
ヴァセレは気にも止めずにぼうっとしている。
「カースメーカーって、ヘンな名前多いけど、貴女のヴァセレってどういう意味なの?」
その質問にはヴァセレも興味を持ったようで、オバケ屋敷の人形が動くように、ゆっくりと顔をソーンの方に向けた。

『―のたうつ―』

「…ふ、気に入ったわ、貴女。」
ソーンはそれだけ言うとさっさと自分だけ宿に帰ってしまった。
「…そーん、の意味は?…」
ヴァセレが虚空に呟く。

『血』

「と云う意味だそうだ、多分」
「…ステキ」
何故そこで頬を赤らめる??

類は友を呼ぶ。
そんな今日のレイヴナズ。

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