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ガンズ・パピー1-5-2

第5章「Cerberus」(2)



 全てに於いて自分のスタンスを貫く人間、ってのにも、まぁ色々あるもので。

 かっこ良かったり悪かったり、判断基準はそれぞれ違うだろうけど、限度ってのは確実にあると思う。

 そういう点では、僕なんかはスタンスとかそこらへん気にしてない方だ。自分に本当に合ったものって、なかなかないもんだよ、実際。

それで、と言うわけでもないのだろうけど、「彼ら」はあらゆる意味で凄かった。

 「ハウス」自体は飾り気のない建物なのだけど、中に来る人たちはかなり多岐に渡っている。と言ってもある独特の方向に固まってて、それが外見はぱっとしないこの建物に色を与えてるんだと、最近は思うようになっていた。

 その色ってのは「ガンメタル」かな、やっぱり。



 さて、僕がバートンさんに出された資料に、軽く一通り目を通した直後だったと思う。

 数発の銃声が断続的に飛び込んできた。ここは防弾ガラスで閉め切られた建物の中、なのに聞こえてくるという事は遠くはないという事だ。
決闘が行われるとしてもだ、連邦政府施設の近くではまず行わないだろうし、やるにしても近くにいる僕達になんの連絡も「ハウス」側から無いのはおかしい。

 こんな土地柄しかも出入りするのは銃器を持った決闘代理人がほとんどだ。

 「ハウス」内の空気が一斉に張り詰める。

 そこかしこから、セーフティーを解除し初弾を薬室に送り込む、一連の乾いた音が響く。

 出入り口付近にいた何人かの同業者の先輩方は、きっちりマニュアル通りに壁に背をつけ、自分の姿を隠しながらも、バートンさんの性格が伺える曇りなく磨かれたドアのガラス部分から、銃声後の外の様子を探っている。

 この事態がやはり不測のものであったことは、保安官さんの所に電話をしているバートンさんの声色で判った。状況を説明したり問い合わせている声が、かなり緊張している。

 外の出口付近にいた先輩方はとっくに物陰に隠れたようだ。

 流石にそのくらいは瞬時に出来ないと、ここではやっては行けないだろうし、それにそういうのもテストの中にあったような気がする。

 マークシート方式だったけど。

 外は、サラサラとここ独特の灰色の粒子が細かい砂が、吹き上がる風に踊る音だけが聞こえてくる。

 さっきのはなんだったんだろう。

 そう、ふと動こうとした時だった。

 掻き鳴らすようなエレキギターの音が大音量で響いてきた。

 なんだかうがいしてるようなヴォーカルが。

 デ、デスメタルだな、これは。

 音は大きいのだけど、大きすぎて音が割れてて、音の大きさの分、逆にチープに聞こえてならない。

 それは銃声のした方向から流れてきていた。



 三人の人影とともに。



 嫌な予感がした。こういうのに限って当たるよね。

 みんな呆然と近づいてくる3人を見ていた。

 というか、かまいたくなかったってのが本当の所だと思う。前にナイフのお手玉を見せてくれた人も、小鼻をひくつかせるだけだったし。

 バンッ!っと開け放たれた「ハウス」のドア。

 カチンカチンと足音ともに金属音が鳴るのは、底にもリベットが打ち付けてあるそういう靴だからだ。

 全身黒レザーの上に、トゲトゲが一杯着いたジャケットや、歩く度にジャラジャラとチェーンが鳴る。

 で、お定まりのモヒカンもしくはスキンヘッド、グラサン、オプションでヒゲ。

 って、この人らもしかして。

 僕は今手元にある資料と見比べる、間も無く判ってしまった。

 この人たちと僕は決闘を。

 わ、悪そう・・・。



 3人の中心に立って、いかにもリーダー然としたスキンヘッドの男がおもむろに口を開いた。

 この人が、例のいかにも悪そうな囚人服の人だ。

 誰に、と言うわけではなく、「ハウス」の中に、近辺にいる僕達”決闘代理人”にだ。



 人生は奇怪だ。



<続く>

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