94

ガンズ・パピー1-5-1

第五章「Cerberus」(1)



 世の中には何も言わないでもその人がどんな人なのかが、一発でわかる風貌や服装を好んでする人達がいる。

 よく善人面、悪人面と言って映画なんかでは“いかにも”の顔の俳優が、やっぱりワルの役なんかをやっていた方が、見る側は倦怠感を感じながらも、安心して観れるものだっりする。

 そんな顔の集大成を、僕は今“ハウス”の中でめくっている。

 休み明けとあって、朝から手狭な平屋のハウスの中は、イカツイ同業者の諸先輩方でにぎやかだった。

 何度か殴り合いの喧嘩がフツーに起きて、保安官さんも手馴れた様子で。

 まあそんな所。



 で、僕がここに来てさっきからめくっているのは、決闘代理人申請用の書類だ。

 代理人を立てたい場合には必ず書かなければならないもので、そこには決闘に至った経緯、そして決闘相手のことなどが書いてある。

 探しているのはあのおじさん、ウィルさんの相手のことだ。

 さっきから注意して探しているけど、なかなか出てこない。あの車輪ステーキの後に見せてもらったバッジは本物だったから、必ずここにあるはずなのに。



「見つからないのかい?」



 そう僕に声をかけてきたのは、ここハウスの主任、バートンさんだ。

 バートンさんは30半ばといったところで、英国紳士風だ。オリーブ色の髪はきっちりとセットされていて、いつも上品な香水の香りを欠かさない。カーキ色の三つ揃えのスーツを愛用、丸い金縁の眼鏡がトレードマークだ。細身の長身、ここの諸先輩方とは明らかに生まれが違うのだけど、なぜか上手くやっていけている。

「はい、ちょっと…。」

「確か君はリュグマン君のチームで登録されていたね。」

 そう言うが早いと、ツカツカと小気味良い音を革靴の踵から鳴らしながら、天上まである大きな棚から分厚いファイルを一冊抜き出して、恐ろしい速さで、3ページ分を抜き出した。

 困ったことに、僕が探しているのは今度僕らが代理決闘する相手のものではなく、ウィルさんの決闘相手のものなのだけど。

 バートンさんに手伝ってもらうとすると、自分に関係のない決闘の情報だから、ある程度は経緯を説明しなければならないだろうし。

 当のウィルさんからは、情報を聞き出すのは無理だろう。

 誰しもよほどの信頼関係を築いた相手以外には、自分の深い話はしないだろう。特に憎しみを伴う悲しみについての話なんかは。

 それで結局、僕が自分で探すしかないようだという結論になった。

 好奇心、という部分も正直ある。

 同情めいたものでやってるのかもしれない。

 余計なお世話どころの話ではないレヴェルに踏み込みつつあるのも自覚している。

 僕が一応の感謝の意を示すと、バートンさんはカウンターの奥の自分の席に戻っていった。

 感謝は本当にしているのだ、そのうち今度の、僕にとってはここで初めての決闘の相手について情報を手に入れてこうとは思っていたのだから。

 折角だから、出してもらった資料をぴらっとめくる。



 まず写真に目が行った、あからさまにワルの顔だ。

 不健康そうな三白眼はこちらを睨みつけていて、鼻先に囚人番号である数桁の英数字が書かれた札を掲げ持っている。

 髪型は収容当時なので、かなり短い。頬はこけ、影が表情の主線を描いている。

 えーと、罪状は・・・。



 やってないのは駐車違反だけらしい。



 こんなのなんだ、やっぱり残ってしまうのって。

 残り物には、災難だなこれは。



 人生は奇怪だ。


[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]