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世界樹の短文「今日のレイヴナズ4」

あの蟹は食えるだろう。
いや、あの蟹を食べたい。

餓えていた。そう、誰もが皆。
階層を重ねてゆくごとに出会うモンスターは強力になり、不味そうになる。
兎は良かった。鹿も牛も。鳥なんてのも上等だ。
スライム系はパスだろうし、サソリもなんだか恐い。
ゾウさんは心情的に食べにくい。
第三階層に入ると、目の前に現れたのは昆虫と両生類だ。
喰えない事は無いだろうが、テクニックとスキルが必要だろう。
更に下にもぐった事がある、レンとツスクルに聞いてみた。
食べ物はどうしているのかと。

「ブシドー喰わねど高楊枝」
「…本当に知りたい…?クスリ」

樹海とはかくも危険な場所なのだと、改めて理解した。
レンはこう言っていたと、新しく入ってレベル上げ中の同じブシドーのぬえひめに言ってはみたものの。
「流派が違う」
と一蹴された。
まあ、ブシドーは流派によっては健康法みたいなものも伝えてるという話だから、そうなんだろうと、喉元に突きつけられた切っ先を指でそっと摘んで避けて納得した。

レンジャー、それはメシを調達する仕事。

カエルの頬肉を大量にシリカ商店に持ち込んだら、案の定嫌な顔をされた。
「なに?キミ達はボクにウラミでもあるの?」
そんなこと無いッすよ!シリカ商店に逆らったら、色んな方面からお怒りの言葉が!!
カエル肉はLV上げの副産物である。
カエルは腿肉が美味しいのだけれど、呪いガエルの件もあるので食用は避けている。
一度カエルだと伏せて出したら、後に施薬院送りにされた。
美味しいって言ってたじゃないか。

そういえば、回復の泉の上に巣食ってた蟹。
あの水は綺麗だし、清流にすむ魚は美味しいと聞く。
あの蟹は食えるだろう。
いや、あの蟹を食いたい。
嗚呼、あの蟹、毒の術式なんてかけさせずに、炎系で蒸し焼きにして食べてみればよかった。

カエルの屍を前にしながら、ココロは遠くへ飛んでいた。
そんな今日のレイヴナズ。

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