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ガンズ・パピー1-3-3

「ガンズ・パピー」



第一話、「Open Fire」



第三章、「K・K・K」(3)



 僕が、この街では通称「ハウス」と呼ばれる、古びた建物に向かったのは、ここに来て二度目の事だった。最初に来た時は、誰もいなかったし、それにゴタゴタがあり、10分もいなかったと思う。なので、少し緊張していた。決闘関連の情報は、ここ「ハウス」のデータベースの方が正確だと保安官さんに教えられた。その答の裏には、これ以上オレに聞くな、という意味合いがあったと思う。それについて、僕は保安官さんに感謝こそすれ、という気持ちだ。普通の場合、詮索されるのは、模造銃を持ち込み、唐突に違法行為の罰則規定を聞いてきた僕の方なのだ。多分、職務規定のいくつかには抵触した上で、僕を見逃してくれたのだろう。だから、感謝だ。

 ビーフジャーキーも貰った。



 夕暮れのこの街は、急に気温が下がる。おそらく気候とかは、砂漠に近いんじゃないかなと、僕はみる。

 所々の廃屋から炊事の為だろう、細い煙が蒼味を増した夕焼けの紫に白い糸を這わす。良い匂いもする。早く用件を済ませないと、「ハウス」は一応お役所だから、定時には完全に閉まるという話だ。

 向かう途中、近道を試みる。こういう土地勘には、自分で言うのもアレだけど一種天才的なセンスを僕は持っている。

 野鳥の帰巣本能にも比する感覚、かも知れない。一度行った事がある場所には、必ずたどり着ける。

 方角は、こっちだ。

 細かいコンクリート片が、一足ごとにブーツの底でガロゴロと音を立て、更に細かい粒になる。この街を舞う砂塵が灰色なのは、これの影響もあると思う。

 だからなのかも知れない、ここに色彩は乏しい。

 生きているのはわかるが、それ以上でも以下でもない、そんな色を持っている街だ。

 そんな事をシブ目に考えてたら、

 迷った。

 ココ、ドコ?

 僕はどうも集中力が足りないらしい。子供の頃からそう言われていたような気もする。

 雀百まで三つ子の魂かな。

 迷い込んだここには、何も無い。只の廃虚だ。薄汚れたビルの隙間。既に闇の塊が先行して夜を作っている。

 さて、止まっていてもしょうがないね。こういう時こそ、周囲を観察。灯かり、だなあれは。人の声も風に乗って聞こえてくる。あっちには、市が立っているようだ。そういえば、そんな事リュグマンさんから聞いたっけ。よし、人に聞こう。道に迷ったらそれが一番。

 僕の足が乾いた地面を蹴る音が、空っぽのビルの間にコダマする。

 市の光と音が段々近づくに連れて、感じる空気も命の暖かさを吹き返しているようだ。

 が、突然、右の頬の辺りに冷たさを感じる。

 夜に隠された隙間から突き付けられた拳銃が、その異質な感覚の正体だった。



「この後は、どうすればいいか位、自分でわかるよな。」



 陰から声が聞こえる。過分に脅迫の利いた声。少し掠れている。どんな人だ、

「おっと、そのままだぜ」

カチリ

 と、撃鉄が起こされる音を聞いては、迂闊には動かない。

(全く、急いでるのになぁ。)

 思わず微かにボヤキが出る。

 細い月がアンテナや電線の網に捕まっている。

 なんか、同情した。



 人生は奇怪だ。


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