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ガンズ・パピー1-3-2

「ガンズ・パピー」



第一話、「Open Fire」



第三章、「K・K・K」(2)



 銃の武器としての最大の利点、それは、引き金を牽く力さえあれば子供でも扱えるという事だ。拳で相手を殴ると、当然こちらの拳も痛い。刀で斬るとしても、その行為にはある種の恐怖が付きまとう。

 銃はそれを簡単に消し去る。相手を倒すのは、金属の塊であって、自分の拳でも、降り下ろした刃でもないからだ。

 火薬の爆発的な燃焼、それによる弾頭の発射、条丘によって刻まれた旋状痕が生む回転運動によるジャイロ効果の弾道の安定、人体に対するダメージ、それらは全て純粋に科学的なことだ。

 しかし、人間はどうしても銃にも情念を入れ込みたいようで、「正義の弾丸」とか「復讐の銃弾」なんてのが大好きだ。因みにメーカーは同じ某大手。

 正義の味方が撃った銃からは、「正義の弾丸」が飛び出すらしい。

 アホらしい。と、僕は思わないではいられない。



 本来なら、指先を動かすのがやっとのはずのおじさんなんだけど、指先が動けば引き金は牽ける。これがミラ達にとって、仇になった。しかも、ショットガン、これが更にまずい事にしている。弾丸が拡散するショットガンは、精密な狙いがそれほど必要ないからだ。

 右腕が使えないので、左の腰の辺りに、オーソドックスな12ゲージのショットガンを構えながら、ゆっくりとミラ達の前に現れたおじさん。

 ここからウィルさんにしよう。

「それを、帰してもらおうか。」

 顔色はとても青く、体中から冷や汗が滴っている。本来は目を覚ましているのも、かなり大変なんだろう。

 それ、が指すのは、テーブルに揚がっている、許可証とかだ。

「あっちゃー、ごめんあたしのだわ、アレ。」

 自分の額に手をあて、キャシーさんがウィルさんの持っているショットガンを見て、隣のミラ達に謝る。何か失敗した時に額に手を当てるのは、キャシーさんの癖らしい。

「なんで、診療室に?」

 両手を挙げながら、横目でマスターさんが尋ねる。

「・・・戦場、だからかもね。」

 僕が後で聞いた時も、同じ事を言っていた。

「早く、それを、返せっ。」

 ウィルさんがよろめきながらも、左腕一本でショットガンを構え直し、三人に促す。

 それまで黙って見ていた、ミラが動く。

 手元にあったコップを静かに持つと、三人とは反対方向になる店の入り口に向かって、ウィルさんに気づかれないように、低空を投げる。



ガチャン!



 突然の物音に、ミラ以外の三人の目と注意がそちらに向く。

 と、同時にテーブルから一気に跳躍したミラが、ウィルさんの左の肩口に、鮮やかな跳びカカト落としをきめる。

「ぐぅっ!」

 鈍い音とともに、ウィルさんがショットガンを落とす。すかさずミラは、それを奪い取り、散弾を抜き取る。

「カテドラ、ほらコレ。」

 それら全てをキャシーさんに投げてよこすミラ。

 カテドラがキャシーさんの本名らしい。

「カテドラだと、なんか堅そうだから、キャシーにしたの。」

 と、キャシーさん本人が後日そう言っていた。

 ウィルさんは、そのまま膝から前のめりに崩れ落ちる。

「私の、写真を・・・。」

 そう、倒れながらも呻くウィルさん。

 ミラは、ウィルさんの耳元に何か話しかけたそうだ。

「左、しょるだー外れてるから。」

 それだけ、キャシーさんにいうと、またテーブルに就いてしまったそうだ。

 ウィルさんは、マスターさんに抱き起こされ、もう一度診療所の方に運ばれる事になったらしいが、以前よりずっと丁寧だったみたいだ。

「ありがとう。」

 そういったのは、ミラを除く三人だ。

 マスターさんと、キャシーさんはそれぞれ既に、隠し持った拳銃で撃たなければならない寸前だったそうで、しかし、ウィルさんが言った「ありがとう。」が何を指すのかは、わからない。



 そのとき時間は、もうすぐ夜を迎えようとしていた。

 災難は、勝手に自分でやってくる。



人生は奇怪だ。

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