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ガンズ・パピー1-3-1

「ガンズ・パピー」



第一話、「Open Fire」



第三章、「K・K・K」(1)



 クー・クラックス・クラン。

 白人至上主義の結社の名、ではあるんだけど、元はシングルアクションの銃を撃つ時の撃鉄の動作音からとったらしい。

 「クー」で撃鉄を牽き、「クラックス」でストッパーに掛かり、「クラン」で引き金が牽かれ、弾丸が放たれる。

 ここからは、僕が現場にいなかったので、後から聞いた話を僕なりに整理してみたものだ。

 僕が「バレット」から、粗悪品の模造銃を持ち出した後の事。

 当のおじさんは、いまだベッドで意識がなく、一仕事終えたキャシーさんは、汚れた服とかを換えに自室に帰り、商売繁盛のマスターさんは、これから来る夜の客に備え、血の跡を掃除するため、裏にモップとバケツを取りに行っていた。

 さて、店内にはと言うと、少しだけいた客もおじさんの登場と前後して帰ってしまっていたため、ミラが一人でブーたれていた。

 おやつ代を僕が持ったまま、どこかに行ってしまったからだ。我ながら、上手に撒けたと思う。探そうと思えば探せないこともない。僕の行動範囲はまだ限られているからだ。けれど、そうしなかったのは、ただ「めんどー」だからだろう。なにせミラだし。

 テーブルに両肘を着き、空になったコップの縁を噛っていた(空腹時に時たま見られる行動)ミラは、おもむろに僕が使うはずだったコップを手に取ると、外を目掛けて勢い良く投げ捨てた。

 そのコップは、道を隔てた路地の角に、破片となって見つかった。

 丁度その直後あたりに、マスターさんとキャシーさんが、またメインホールやってきた。

「あれ?あのルーキーさんは?」

 汚れてしまったのが、普段着だったようで、その時降りてきて、後で僕が見たキャシーさんは、サテン地のシャツとスラックスで決めたスタイルだった。

「アスキ?・・・・興味ナシ。」

「ふうん、じゃなんで、置いて帰らないんだろね?」

 キャシーさんがミラの顔を覗き込みながら、そんな解り切ったことを聞いた。おやつ代に決まってるってば。

 ミラが何も答えないでいると、マスターさんが割って入ってきた。

「どうする、キャシー?あの男、一応保安官に連絡した方が。」

 キャシーさんが、胸ポケットから、薄汚れた二枚の紙切れを取り出し、テーブルに置く。覗き込むマスターさんと、横目で見るミラ。

「これは、決闘許可証じゃないか。やっぱりあの男、ここの人間じゃないとは思っていたんだ。」

 そして、もう一つの紙、いや写真だ。あのおじさんと、多分奥さん、そして娘さんなんだろう、僕やミラと同じ位の年代の女の子が仲睦まじく幸せそうに写っている。

「さっき許可証詳しく見たけど、あのおじさん。この二人の代理人なのよ。」

 キャシーさんはそういうと、またポケットから僕らと同じ決闘代理人の証であるバッジを取り出した。



[Wille]



 ウィル、これがあのおじさんの名前らしい。まだ新しい。実際に見たら僕のより、新しそうだった。

「おい、するとやっぱり、この二人は・・・」

 マスターさんが、苦い顔をしながら、微笑む三人の写真を見つめている。

「ええ、この二人、奥さんと娘さんを殺した相手との、決闘許可証よ。」

「なんてこった!で、あの有様か。天は復讐も時として救いになるとお認めになるべきだな!」

 マスターさんが簡単に祈る。

「チョイ待ち、今日は決闘のニュース、ナシだって。」

 黙っていたミラが、突然話題に入る。

 キャシーさんは複雑な表情を浮かべる。

「そう、ミラの言う通り、あのおじさん、今日が決闘の日じゃないのよ。」

 三人が沈黙する。

 柱時計が、虚ろに響く。

 その時だった。まだとても起き上がれないはずのおじさんが、ホールに現れた。

 階段の手摺に掴まりながら。

 ショットガンを構えて。

 人の意志、それの強いものは、痛みや恐れを越えて働く。

 愛だろうと、恨みだろうと変わりはない。



 人生は奇怪だ。

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