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ガンズ・パピ−1-2-4

「ガンズ・パピー」



第一話、「Open Fire」



第二章、「矢車草」(4)



「こりゃあ、あれだな。ボーイの言うように、ニセもんのまがいもんだゼ。」

 保安官さんは、(驚いたことに、本当に役職名が連邦武装保安官。)僕が持ち込んだ、例のガンメタルのベレッタM92Fをしばらくすげつ眺めつした後、そう言い切った。因みにボーイとは僕だ。

 撃鉄のサイドの刻印が、どうにも怪しかった。本物よりぼやけていて、字体が微妙に違う。

 それで、おじさんが安静にしている間にと、保安官さんの所に持ち込んだのだ。

 保安官さんが、おもむろに椅子から立ちあがると、フィンガーガードの環の中に人指し指だけを入れ、ガンマンよろしく、くるくるっと廻し、腰のホルスターに納める、瞬間、ベレッタM92Fではグリップ(銃把)に内蔵されている型のマガズィン(弾倉)が回転の勢いで飛び出し、僕の鼻の下にカツンッ!と当たる。

 ここは、急所だ。人中。

 無言で鼻の下を押さえ、鈍痛にのたうちまわる僕。を、尻目に当の保安官さんは、マガズィンを拾いあげチェンバーのスプリングやら、
サイトの具合やらを再度確かめている。

「決定的だな、こりゃ。オレだったら、こんな出来損ねえの危ねえオモチャ、金貰っても使わねえな。」

 うーん、やっぱりそうだよな、あのおじさんは「素人」だ。

 さっき、僕にマガズィンが飛び出て当たったが、こんなことあってはならない話だ。

 中世で、決闘が剣やナイフに依るものから、銃に移り変わったのには、決闘用に豪華な装飾を施した銃を、武器商人が売り付けたためだったという話だ。多分、その手の輩に引っかかってしまったのだろう、あのおじさんは。

 何も知らない素人に、出来損ないを高くふっかける、よくあることだ。

「で、どうしたって言うんだ?こんな汚ねえ代物、オレん所に持ち込んで。」

 少し斜にかぶったテンガロンハットを、机の上に両足を組んで投げ出した姿勢のまま、つい、と人指し指であげる。

 どこまで話して良いんだろうか?

 この街に、入って来られたという事は、即、銃器の使用許可と携帯許可が発効したという事で、それは同時に、全ての責任が自己にあるという、政府側の免罪符だ。つまり、例え紛い物の粗悪な銃で事故にあったとしても、それは、そんなものを買った本人の責任で、売った側は罪にならないし、この街を管轄するあらゆる政府機関に管理責任は無いという事だ。

 しかし、こんな銃で騙されるのは、素人しかいないと思う。銃にはそれほど詳しくない僕でも(といっても扱えはする)、怪しい事にはすぐに気づいた。本物を知っていたからだ。

この街に銃器の素人がやってくる理由。

 そして、銃器を持たざるを得ない状況。

 それは、あのおじさんが決闘の当事者だから、なんだろうか。

「黙秘権か、ボーイ?」

 今日は決闘は行われないはずだ。事前の立ち入り制限の情報とかがなかった。

「あの、決められた日時や場所以外で決闘をしたら、どうなるんでしたっけ?」

 たしか、なんか罰則があったはずだ。

「なんだよそりゃ?いきなり。」

 さっきまでとは違い、急に困った顔になる保安官さん。

 机の中から、赤い表紙の本を取り出すと、鋭い眼光で目次を見ながらめくり出す。因みに本のタイトルは「100%ライセンスゲッチュー!シリーズ{連邦武装保安官}」だ。

「日時、とぉ、場所?か?・・・212ページ。」

 眼鏡を取り出して掛けた。保安官さん、眼光が鋭いんじゃなくて、ただ目が悪かっただけのようだ。せめて、コンタクトにして欲しい。急に銃を撃たなければならなくなったら、どうするんだろう?。

「あったな、ヨシッ、よく聞けよ。」

 と、ふんぞりかえる保安官さん。・・・まあ、いいか。



「決闘法、第二条第二項の2、場所及び日時の申告について。

 決闘を行う者は、両者以外の第三者へのあらゆる身体的、精神的及び金銭的な損害を与えないように、政府当該機関等の許可を得て行う事とする。

 政府当該機関は、申告に応じて日時、及び場所を指定、確保し両者に通知するものとする。

 <罰則>

 政府当該機関等への申告が無く、勝手に決闘行為をした者。

 また、申告され、許可を受けた場合に於いても、それに従わずに決闘が行われた場合。

 上記に於いては、決闘法の特権となる、両者間の傷害または致死事件の免責は失効し、通常の裁判に加え決闘法違反容疑も追加される事となり、

 当該両者間の決闘は、後にいかなる場合に於いても認めぬ事とする。」



「どうだ!解ったか!!」

 汗がスゴイよ、保安官さんてば・・・。

 そうか、もしあのおじさんのあの怪我が、違反した決闘だったなら、捕まる上に同じ相手との決闘は、もう無理になるんだ。

 僕が、あのおじさんの決闘に、こうもこだわるのにはわけがある。

 「バレット」で、助けようと抱き起こした時に、名前を呼んでいた。


「レイチェル・・すまん・父さんを・・・許してくれ・。」


 ここまでだったけど、大方は予想がつく。

 しかし、その頃、そのおじさんがいまだに眠っている「バレット」では、大変なことが起きていた。

 ミラは。

 大丈夫・・・か。いろんな意味で。



 人生は奇怪だ。

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