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ガンズ・パピー1-2-1

「ガンズ・パピー」



第一話、「Open Fire」



第二章、「矢車草」(1)



 決闘。

 昔の西部劇ものの映画には、必ずと言っていい程この場面があった。一陣の風が砂煙りを舞いあげ、ブリキの看板がカタカタと鳴り、メインストリートに向き合う二人。カーテンの隙間から住人たちがそれを覗く。そういう場面で、ついてまわるのが、あの丸い枯れ草の塊みたいなのだ。

 「矢車草」とそれは言う。あれ自体がちゃんとした植物だ。ああやって、西部特有の強い風に転がされることによって、種を広範囲に巻き散らす。環境に適応した、非常に頭が良い植物だ。

 一応、高等類人猿であるはずの僕は、適応というよりは、朱に寄ってたかって染められた感じで、この街に慣れようとしている。

 最初に来た時には、緊張やらが先に立ち、細かい部分まで街の様子は観察できなかった。今日はこうして、かんなり厄介な案内役がついてるとはいえ、ちゃんと見て覚えて置こうと思う。

「あれは、廃虚。で、これがコンクリ。そっちが割れ物ダネ。」

 説明としては、外れていないんだろうけどさ。ミラさんてば・・。

 そんな僕の内なる声を無視して、というか直に言っても変わらないだろうけど、ミラはゴキゲンでずいずい歩く。子供だよ、ほんとにさ。

 僕は慌ててその後を追いながらも、必死に街の様子に目を配る。

 思ったよりも荒れてはいないみたいだ。弾痕が見られても、表面だけで内部は、問題のなさそうな建物が殆どだ。おそらく9ミリパラペラム弾だけとか、使っても5.56ライフル弾位で済む、小規模な決闘が多いんだろう。街中では、流石に派手にはやらせないよな。

 中心地を抜け、少し開けた場所が多く見られてきた。この辺からは、大きな爆発の痕跡が目立ってきているようだ。しかし、流石に地雷は使う馬鹿はいないみたいだ。実際、ルール違反だしね。

 元が公園、なんだろうか。何もない広いだけの土地が急に広がった。この近辺に近づくと、一層戦闘の痕跡が激しくなってきているようだ。空の弾倉や薬きょうも無数に転がっている。

「ここで、やる事が多いのか?」

 ミラに聞いてみる。帰ってくる答が、マトモかどうかは考えなかった。

「ここでやるのは、決闘じゃなくて、只の殺し合い。」

「個人的なものじゃなくて、もうちょっと物騒な事に白黒つける時に、ここ、使うのよ。」

 個人的じゃない、決闘で白黒つけた方が無難な物騒な事。ね。

 そう言った、ミラの瞳は鋭くて冷たくて。

 誰だよ?君はさ。

 答え、マトモだったけど、ちょっと複雑な気持ちだ。

 やっぱりミラも、ここの人間なんだなって。

「ミラも、ここでやったことあるの?」

「ワタシとリュグマンは、ここでやるのは嫌いだから。」

 風で目に掛かった前髪をそっとかきあげるミラ。

 少しもの憂げな表情で、目の前の荒れ地を見つめている。

 沈黙、か。

「おなか空いた。」

 そう言ったのは僕だ。

「このおやつ代、僕の分も入っているよね。」

 リュグマンさんからのお金を、預かっていたのは僕だ。

 すかさずダッシュで逃げる。あんな案内で、役が果たせたわけがないし、ビーフジャーキーの恨みもある。食べ物の恨みは恐ロシー事を思い知るがいいさね!!


 痛い!痛い!痛い!


 顔への衝撃と地面が背中にひっついた感覚が同時にきた。

 オリオンのベルトが見えたよ、カンパネルラ。

 ぐーだ。ぐーが飛んできた。3パック680円。

 なんでだ?変にアンニュイしてたくせに、もう僕の目の前に居るじゃないか。

「アマイ、甘すぎダン、Drラスキー。覚悟は、デキトルか?」

 しかも、また変な言葉、言い出してるし。

 また、訳のわからないこと言って、こき使われるのは目に見えていたが、ほっとしたのも事実だ。断って置くけど、僕に苛められて喜ぶような趣味は無い。

 ・・・・無いって。

 いや、本当に。



 人生は奇怪だ。
 ほんと、違うってば。

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