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ガンズ・パピー1-1-5

「ガンズ・パピー」



第一話・「Open Fire」



第一章・「決闘代理人」(5)



 さて、僕がここに来て、ミラ達と出会い、3日目の朝だった。

 結局、その前日は結構な広さのある元学校の、全面的な掃除をやらされてしまって、なんら仕事関係の話が聞けなかった。

 僕がここに来た理由、ここにいる理由。

 それは、決闘代理人として働くことで、初めて前に進めそうな気がする。だから、今日こそはどうしても、色々聞かなければならないと、心に決めていた。

 ひとしきり朝食が済むと、いつ切りだそうかとタイミングを計っていた僕は、金属製の食器を下げながら二人の顔をそれとなく盗み見る。

 ここ二日で気づいたことだが、ミラは食べ物に恐ろしく執着し、そしてそれだからなのか、鼻が利く。最初の出会いの時からして、封が少し開いていたとはいえ、乾物のビーフジャーキーの匂いを察知したのだから、それに関しては犬並みなんだろう。

 だから、食後はおとなしい。

 けれど、食事中は恐ろしい。

 誰かに取られるとでも思っているのだろうか、ちょっとでも手がミラの皿に近づこうものなら、容赦なくフォークで刺し、威嚇してくる。

 対象的に、リュグマンさんは、それほど量も食べない。体の割には小食だ。下手すると残すこともある。そうして早く食事を済ませて、何をするかというと、飲むのだ。

 といっても、お酒ではなく、コーヒーと紅茶、これをひっきりなしにがばがばと飲む。下手すると、一口ごとに変わるがわる飲んでいるようだ。大抵は新聞を読みながらが多いようだ。

 新聞といっても、この建物内にある古新聞を、何処かから拾ってきて読んでいるようなので、情報の即時性は求めてはいないようだ。ひまつぶし、なんだろう。

 今日も、いつのか解らない新聞を広げながら、前に置いた紅茶とコーヒーを、一口づつすすっている。朝はそれほど飲まないみたいだ。

「で。何かな?アスキ。」

 コーヒーと紅茶、混ざったらどんな味になるんだろうと、想像して気持ち悪くなっていたので、逆に不意を突かれてしまった。

「あっ、え。あの、決闘って実際にここではどうやって。」

 リュグマンさんとミラが目を見合わせる。

 なにか、間抜けなことを聞いてしまったのだろうか?

「アスキ、りあるのバッジなの、それ?」

 食後で落ち着いたのか、少しまったりした顔のミラが僕のバッジを指さす。ラスキーと呼ばないのは感心だけど、まったく、失礼な話だね。

「ちゃんと、ライセンスの試験を正規に合格して貰ったものだよ。」

 当然の反論を僕がする。

「そういえば、ちゃんと聞いてなかったね。」

 リュグマンさんが、それまで横向きで足を組んで座っていたのを、正面に座り直し、僕と向かい合う。

「なにを、ですか?」

 こっちから聞く事は想定していたけど、聞かれるとは思ってもみなかった。

「アスキ、君は、いや、君の得意な武器はなんだい?」

 真っ直ぐこちらを見つめながらリュグマンさんが聞いてくる。ミラは僕の隣の席に座ったまま、頬杖をついて僕たち二人を見比べている。

「それは、大事なことですか?」

 僕は警戒する。自分の手の内はなるべくなら、自分以外には知られない方が、あらゆる場面で有利に働くからだ。

 悪いけれど、二人ともまだそこまで信用は出来ない。

「うん。困ったなぁ。」

 リュグマンさんがそう言って急に姿勢を崩すと、笑顔を浮かべる。

「本当の所を言うとだね。今度三人同士での決闘の依頼、もう受けちゃっててね。アスキ、君も入ってるんだよ、こっちの頭数に。」

「うえっ?」

「公示期間ギリギリになると、ここでは二倍とかになるんだ報酬が、それで、頭数揃った時点で、受けてきてしまってね。」

「因みに、3日後だからよろしく。」

 オイオイ、僕になんの話もなく、決められちゃってるんだね。

 もしかすると、それが狙いでこの人は、僕を誘ったんじゃないのかな。などとも、考えてしまうぞ。

「それで、一応痛い思いしなくて済むように、作戦練っておいた方がいいかなと、思っただけなんだ。」

「急にそんな、僕まだここの街よく知らないんですよ!?」

 決闘の場所は、ここの街中のどこかに区切って作られる。大抵は誰も「いなさそうな」所が選ばれる。この街が決闘専用の街だからだ。この事だけは、有名な話なので知っていた。だからこそ、街の建物や地形を知る事に意味があるのに。まだ準備が十分じゃない。

「大丈夫、今日ミラに案内頼むから、一日で覚えてくれば間に合うよ。」

 もう僕が、承諾したと思っているリュグマンさん。確かに断る気はない。ごねたのも一応のスタイルを見せる、という意味合いもあるかも知れない。

「エーッ、やだよ、メンドーくさい。」

 ミラもごねる。

 別にいいよ、そんな顔するなら。ケッ!やさぐれてみる。

「一人で行けますよ、多分。」

「そう、でもねえ。」

 といいつつ、リュグマンさんは、横のリヒテンシュタイン(貴族熊)の背中のファスナーを開け、何枚か紙幣を取り出す。

 その機能、便利そうな、不便そうな・・・・。微妙だ。

 それを、まだ不満そうなミラの前に置くと、

「はい、おやつ代。」

 と、静かに言った。

 そう、それで話は決まった。

 いい加減にも程がある。

 でも、僕はこの二人、嫌いではない。



 人生は奇怪だ。



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