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ガンズ・パピー1-1-4

「ガンズ・パピー」



第一話、「Open Fire」



第一章、「決闘代理人」(4)



 ミラは変な奴だ。

 「奴」と呼ぶのは、僕の内なる声だけで、口に出したら多分イタイ事になる。

 そんな奴のために、僕はいま料理をしている。

 火の付きの悪い野戦用のバーナーで、簡単なものを作ろうとしている。

 なぜだろう?なんでこうなった?

 そんな、自問自答を繰り返す哲学的な僕の後ろ、一応テーブルがあり、簡単なクロスも敷いてある。

 チンチキ、チンチキと皿とフォークが音を立てている。

 やっているのは、ミラだ。

「ラスキー!!可及的ハリアップ、ブレック朝飯!!!」

 まぁた、よく解らない言葉を使う・・・・。

 ラスキーとは、グレートピレネーズ犬の名前、ではなく、どうやら僕のことらしい。

「ルーキーで、アスキだから、ラスキー、キマリっ!!」

 そんなことを言っていた。子供じゃないんだから、とも思う。

 ミラの顔を初めて見た時は、ちょっと驚いた。

 僕と同じか、もしくは下に見えたからだ。

 髪は金色で、はね気味のショートボブに。僕よりも下に見えるのだから、顔の造りも幼く見える。だが、大きな瞳だけは、力強く灰青色に輝き、芯というか、気の強さを現していると思う。身長は160あるかないか、とにかくすばしっこい。

 こういう所に、こういう仕事でいるせいか、服装は実用性重視で、味も素っ気も無いが、ちゃんとした物着れば、それなりに、まあ、かわいい部類の一端には、かするかも知れない。

 今は、あの大きめのフードは衿の後ろに収まっている。


「ミラ、朝食のブレイクファスト(break fast)のファストは、断食という意味で、それを食事によって破るから、ブレイクファスト。」

 リュグマンさんが、カップに入れたブラックコーヒーをすすりながら、自室から起きてきた。

 やりやれやっと、言語の通じる人が舞台にあがった。

「あ、リュグマンさん、おはようござ・・・・!?」

 190近い長身に真っ赤なシルクのパジャマ、まあ、この人ならアリだろう。僕が言葉を失ったのは、カップを持った手の反対の手で、大事そうに抱えられたテディベアだ。

 かなりアンティークが入っている。・・いい仕事、じゃなくて!!

 同じ、パジャマが、着せられている。

「ジム!リュグマン!!リヒテンシュタイン!!」

 ミラが、ミラが、なに?

「ジム。ミラ、アスキ。」

 じむぅ?リヒテンシュタイン??

 僕の目に浮かぶ、虚空が見えたのだろう、リュグマンさんが説明してくれた。

「ミラによるとグッ・モーニンの略、だそうだよ。あと、リヒテンシュタインは彼。」

 そういって、自分よりも先に椅子に座らせ、リュグマンさんもその隣に座る。そして、何事もなかったように新聞に目を通す。

 混濁、鎮静、諦観、妥協、受容。

 そして僕は、また一つ、大人になった。

「・・・じむ。」

 振り返ると、料理を続ける。

 ここは、元学校だった建物だそうだ。

 いま、僕らが集まっているのは、科学室。の跡。

 だから、無機質な感じがするのかも知れない。

 この街は、八割が決闘代理人で残り一割が、政府役人、最後の残りが商人だ。

 ミラ達に聞いてわかった事(といっても、意味がわかる事を話してくれたのはリュグマンさんだが)は、一人で依頼、つまり決闘を行うことは難しいということだ。

 複数の代理人同士で、決闘を行う事もあり、そのために大抵はチームを組むそうだ。

 依頼内容が一人の時は一人で、チームの時はチームでと、幅広くやれるので、そっちの方がいいかも知れない。

 それに、僕はこの街やルールについて何も知らない。

 誰かと一緒に組むのも悪くないと思った。

 だから、リュグマンさんに話を持ちかけられた時は、すぐに承諾した。

 その結果が、今の料理番のお仕事の始まりだ。

 まあ、昨日の今日だから、これも仕方ないのかも知れないな。

 まだ、僕の実力、真の実力を、見せる機会が無いんだから。

 そんな事を思って、ニヤニヤしてしまった。

「ラスキー、変っ!」

「後遺症かな・・?」

 よ、よりによって、この二人に、こんな事言われなきゃならないとは・・・・・。



 人生は奇怪だ。


 この二人も。


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