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ガンズ・パピー1-1-3

「ガンズ・パピー」


第一話「Open Fire」


第一章「決闘代理人」(3)


 あれは、僕がまだ六才か七才の頃だ。

 夜寝ていたら、たまにしか家にいない父が、突然やってくると、毛布とマットレスごと僕をロープで縛り、小脇に抱えて走り出した。

 寝ぼけていながらも、僕は凄く嫌な予感がしていた。

 近所でも有名な、急で知られる丘の上の「神社」の階段。

 それを、僕と毛布とマットレスを抱えたまま駆け上がった父は、
「よく聞け、アスキよ。

 獅子と父は語呂がよく似ている、であるからして、これから千尋の谷へと、秘奥義<ヘルズ・ホイール>の、極限的修行の旅、いきますか?いきませんか?」

 などと、ファンキー過ぎるにも程がある事を、お稲荷さんの前で幼子の僕に聞いてきた。

 因みに、僕の父は、テレビの影響をまともに受ける人だった。

 青少年の悪影響よりも、こっちの方が困りものだ。

 翌朝、伸びた僕を見つけた母に、父が生死の境をお土産つきで案内されたのは、自明の理だ。

 人生は奇怪だ。

 僕の家族はその上を行く。

 ああ、あの時は、本当にやばかった。

 良い匂いのする、真っ白なお花畑が見えていた。

 それを、他の思い出とともに、ぐるぐると思い出している、と、いうことは?



「うわあっ!!!」


 いけないいけない、また、お花畑が見えていた。

 跳ね起き・・・れない。

 椅子にでも座っている感触だ。

 視界が、やけに狭い。

 目隠し!?

 手は・・・、後ろ手に縛られている・・・・・。

 さるぐつわはされてはいないので、声は出せる。

「父さん?父さんなの!?」

ゴンッ!!

 後頭部に激しい痛みが走る。見えないから、突然で心構えが出来ていない分、余計にイタイ。

「誰が、キミのパパだ!!」

 聞いたことがある、ような気もする声。

 最近、だったような?

「ちょっと、殴り過ぎたんじゃないか?」

「とーぜんの報い、報い。」

 !?他の声もする。

「あのう。どうなってるんでしょうか?」

 聞いてみる。聞かなきゃわからない。

 誰かが近づく気配を感じる、手が僕の顔に伸ばされる空気の揺らぎ、一瞬身を強ばらせる。

「目隠し、外すだけだよ。」

 男の人の声だ。微かにタバコの匂いがする。この銘柄は・・・。

「・・・レジー。」

 思わず声に出た。

 手が、ぴたっと止まる。

「よくわかったね。」

 驚きが理性で包まれて現されている。この人は、恐い人かも知れない。

 目隠しが外された。

 眩しさに目が、ということはないように、父から理不尽な修行は受けていた。

 工場のようなフロアに居る。

 鉄骨が剥き出しだ。

 人影は二つ、外してくれた人は、ちょっとタレ目気味の、背の高いひょろっとした人だ。ウェーブのかかった赤い髪の毛が、小粋でイナセだ。

 裾の長い、黒いコートを羽織っている。

 もう一人は・・、

「あっ!ドロボウ!!」

 言ってから、「しまった」と思う、「し」、の発音の子音のSの段階で、堅くて痛いサムシングが、おでこに当たっていた。

「ち・か・んに、ドロボウ呼ばわりされる、記憶情報は、ワタシにはナシッ!!」

 あの、カーキ色の軍用パーカーを今も深々と被っていて、暗がりで顔は見えない。

 しっかし妙に気に触るぞ、この・・・、んっ?、ちかん、痴漢、チカン、僕がか?

 てことは、

「女盗賊!?」

ゴンッゴンッ!!! ☆”☆” 

 サムシング、二連弾。

 本当に星って見えるんだね。カンパネルラ。


「おいおい、ミラ。彼、涙目になって来てるよ。」

「コイツが、ワタシのどこ触ったと、思ってるの!?」

「リュグマン!!??」

 それは、僕も知りたいような、知ったら命の危険が危ないような。
 でも待てよ、為された事実であるなら、その真相は僕が知ろうが知るまいが、変化はない。よって、聞くべきだ。

 やはり、父の血は僕にも濃くあるんだね。

 変な静けさが、一瞬よぎる。



「ほっぺた。」



 どうだと言わんばかりに、ドロボウ、いや、彼女ミラが宣言する。


「なるほど。それは僕が悪い。」
「ごめんさい。」


「えっ?」

 リュグマンさんが、おそらく僕の潔さに絶句している。

 ふんぞり返るミラ、反省する僕、感動の余りポカンとしているリュグマンさん。

 こうして、僕らは出会った。



 人生は奇怪だ。

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