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ガンズ・パピー1-1-2

「ガンズ・パピー」

第一話「Open Fire」


第一章、「決闘代理人」(2)。



 「ハウス」。

 一見すると、普通の平屋建ての事務所のようだ。

 しかし、周囲に徘徊する人たちが、不穏の極地だ。

 なにも、むき身で軽機関銃ぶら下げて歩かなくても、と思う。

 いかにも、の風体の厳ついセンパイ達が、新参の僕を品定めするように睨みつける。

 苦手なのだ。こういうのは。

 ナイフでお手玉を見せてくれる陽気な人もいたが、目の焦点が合っていなかったことには、触れない方がいいと思う。

 まあ、皆さんに比べれば僕は小僧だし、まだ身なりも綺麗なままなので、ナメ易いのだろう。

 なんとか、いざこざにならないように、今にも噛みついてくるような視線をかわし、ドアの前へとたどり着いた。

 きしんだ音を立てて、そおっと汚れたガラスのドアを押す。

「あの、今日来たばかりなんですが。」

 おそるおそる言ってみる。

 なにせ、周囲が周囲だから。

 ・・・・・・・・・・・。

 誰もいない。

 反応はなく、僕は肩から背負った荷物を、手近のスプリングの飛び出たソファに置くと、ゆっくりと途方にくれた。

 仕方なく、見渡す。

 中は意外に綺麗に掃除されていて、大きな時代がかった木製のカウンターなんかは、古いホテルといった感じだ。

 天井には大きな羽の扇風機が、のっそりと廻っている。

「こまったな・・・。」

 独りごちる。

「ねえ、キミ、ルーキー?フリー??」

 突然、横から声がした。

「!?!?!?」

 驚いて急いで飛び除けると、僕の荷物に手を突っ込んでいる人がいる。

「な・・・、だ・・・・!?」

 困惑の余り、僕がおたおたしていると、その人物は軍用のパーカーを頭からすっぽり被ったまま、折角もらったビーフジャーキーを、袋半分まとめてごっそり口に詰め込んだ。

「それ、僕のだけど。」

 相手がどういう人なのか、解らないので強く云えない。

 って、ドロボウじゃないか・・・?

 ドロボウだよ、ドロボウ。

 財産権の侵害だ。

「マハマハ、ハアキイホハ、フヒヒフウフウヒホハフホホホハエイアウホオ。」

「まあまあ、ジャーキーとは、口にする勇気のある者の為にあるもの。だって!?」

 うんうん、と大きく首を振るドロボウ。

 なんという適当な言い逃れ方だ。それも、僕に翻訳させるとは。

 僕はツカツカと歩み寄ると、ジャーキーをさっと、取り返え・・・・せない。

 小癪にもドロボウは、僕の伸ばした手をかわす。

「それは!僕のだ!返して!もらうよ!!」

 ことごとくかわされる。

 ああ、こんなんで、僕はこの先やってゆけるのだろうか?

 ひらりと跳んだドロボウが、手を着いたもの。

 僕の荷物だ。

 長い袋。

 あの中には。








 突然、頭の中がカアッとして、また、意識が飛んでしまった。
 目が霞む。

 やっと、体の感覚が戻ってきた。

 どうやら僕はうつぶせになっているようだ。

 ゆっくりと体を起こす。

 床に手を着く。



 ふに。


 ヤハラカイ・・・・・。

 テンプルとチンと人中と天頂と、顔中のあらゆる急所に猛烈熾烈強烈な打撃を浴びて、僕はまた、意識が飛んだ。

 正確には、飛ばされた。

 ノックアウトだ。

 「お約束」とはなんだろう?薄れゆく意識の中で、それだけが引っかかる。



 人生は奇怪だ。

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