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発掘三題話
- 2009-01-29T22:00:14
- れもら乃輔
「leoN」
ドドオンッ!!
少し離れた場所から、バズーカ砲の着弾音、直後、この爆発音が届いた。
流石はルドルフ、タフな相棒だぜ!
おれ様はとっておきのキューバ葉巻を真っ赤なジャケットの内ポケットから取り出すと、ワイルドに端を食いちぎり、サングラスに映り込むジッポォの灯かりで優しく火を点ける。
この<ワイルド&マイルド>がもてる男の普遍的条件って奴だ。
覚えておきな!そこのボーヤ。
葉巻をくわえたまま、おれ様は敵の陣地に単独で乗り込む。
おっといけねえ、チームワークあってこそのおれ様達だ。ルドルフという、タフで陽気な助っ人がもう先に行って、ひと暴れもふた暴れもしている頃だ。奴のキックにはタイソンも泣き出すっていう、これはまあ、奴の話だが。
ショットガンとウージーを両脇に抱えて、敵の秘密工場に乗り込んだ時には、ほぼおれ様達の圧勝だった。
数で攻めて来た卑怯極まりない敵に対し、勇敢なおれ様の相棒ルドルフは、自慢の足技のみでこれを蹴散らした!!
イカしたぜ!あれは本当に!!
おれ様がスピルバーグだったら、絶対何千万ドル積んでも映画化の権利を買うだろう。
サントラはメガデスで決まりだな。
おれ様達の写真入りシリアルのパッケージデザインなんかも考えながら、おれ様達は、工場を例のブツを探して歩きまわる。
思えば、あれは丁度秋の終わり頃だったと思う。
おれ様達のボスから急な仕事の命令が降りた。
<私の大事なものを捜し出せ>
それは、恐ろしい剣幕だった。
それのあるだろう場所を調べて、やばい仕事だというのは直感した。が、だ。おれ様と相棒ルドルフはボスの望むものを届けるという、命がけの誓約を結んでいる。
いや、ニュアンスが少し違うな。
ボスの望むものを手に入れ、期日にきっかり届けるのがおれ様達の存在意義、難しくいうと「れ、れぞぉんでえぃとる」っちゅうわけだ。
こうしてさりげなく見せる知性も、もてる男の普遍的条件の一つだぜ、ボーヤ。
メモ、取ったか?
それは、瓦礫に埋もれたちっこい箱の中にあった。
何回も見た、見覚えのある、間違いなくボスのブツだ。
おれ様とルドルフは顔を突き合わせて、ニヤッと笑った。これでこの厄介な仕事も終わりが見えてきた。
「そこまでだ!!」
突然、おれ様達の背後から強烈なライトと、妙に乾いた軽い叫び声が聞こえた。
「武器を捨てて、両手を頭の後ろに組み、ゆっくりとこちらに振り向けぇっ!」
ここは、おとなしく従っておいた方がいい。
おれ様達は、それぞれ武器をそっと床に置く。
おれ様は、ショットガンとウージー。
ルドルフは、蹄鉄を。
そして、ゆっくりと振り向く。
見覚えのある連中だ。
「これはこれは、札つきのサンタとトナカイのコンビか。」
「けっ、黙れよ。おもちゃの兵隊風情がっ!!」
ルドルフがたっぷりの唾を吐きかける。
偶蹄目の唾液は威嚇時にも使われるので、それはもうたっぷり出る。
前に、砂漠用にラクダに乗った時、ケンカになってひどい目にあったので、おれ様はトナカイのルドルフとは、なるべくよろしくやるように心がけている。
ルドルフの唾液で、紙製の兵隊はばたばたと倒れる。
しかし、嫌味なヒゲの隊長を含む、近衛兵風の一団はびくともしない。
「フンッ!我々超合金とその辺のゴミとを一緒にして欲しくはないな。」
ヒゲの隊長がハンケチでのっぺりとした顔を拭きながら、ゆっくりと伸びきった腕をあげる。
後ろの兵隊が鉄砲を構える。
ルドルフが鼻をひくつかせ、急に青い顔になる。
「おいっ!連中のモノホンの火薬だぜ!?」
うげっ!?マジかよ・・。
「ハッフハッフハッフ!最近はリアル指向でね。君達の持って来たような、水鉄砲やクラッカーは時代遅れなのだよ。」
くっそー、おもちゃの風上にもおけない奴らだぜ!!
おれ様はしっかりと、ブツの入った箱を抱える。
「おいおい。まさかそんなゴミのために、こんなバカな事をしたのかね?」
「んだとぉっ!?このちびヒゲっ!もういっぺん言ってみろ、コラァ!!?」
ルドルフは若い頃、暴走トナカイだった。
「まったく。ここではそういった用済みの、おもちゃ、まあこれらを我々と同じ言葉で現すのは不快だけれどな、それら時代遅れのゴミ共を、破砕し分解し、新しいおもちゃ達の部品としてでも、使ってやろうというありがたい工場だというのに。
これは、お前らサンタ評議会の許可も受けているんだぞ!?ただじゃ済まないぞ!?わかっているのか?」
「なんとか言ったらどうだ!?」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「おい・・」
「ああ・・」
ちびヒゲ隊長の長ゼリフで、緊張感が切れていた兵隊をルドルフが一気に襲う。その隙に俺は約束の場所まで走る。
暗闇の中、あちこちに体をぶつけながら、ようやく外に転げ出た。
中からは、ルドルフの怒号と銃声が響く。
ルドルフはタフな相棒だ。
約束の場所はボスの棲む町が見渡せる丘。
おあつらえ向きのバカでかいモミの樹がある。
俺が見習いサンタで、ルドルフが仮免トナカイの時に、ボスに出会った。
お互いに落第寸前で、これが最後のチャンスだった。だけど、そんな日に限って、ルドルフは風邪で鼻がまるで光らず、おれ様は相変わらずのソリ酔いで、最悪だった。
それでも、ぎりぎりという状況だったからだろう、おれ様達は、なんとかかんとかノルマをこなしていった。そして、最後、という所で最大のミスを犯しちまった。
見られた。サンタが子供に見られちまった。
砂男の眠り砂を、ルドルフがくしゃみで飛ばした、とか、おれ様がついに我慢できずにトイレを拝借して吐いた、とか、色々原因はあったと思うが、もう、終わりだ。
「わあ!サンタさんっ!ホントにいたんだねっ!!?」
これが、おれ様達サンタの死亡宣告だ。
サンタと子供の直接のコンタクトはタブーだ。
その時も、おれ様達はその言葉をなぜか静かに待った。ここまでやってダメだったら、もういいだろうと、正直そんな気持ちだった。
「・・・・・。」
ばふ。
「うん、むにゃむにゃ。」
な、なんだ?その時何が起こったのか、おれ様達はしばらくわからなかった。
「あたしはねてるよぉ、すぅすぅ。」
その子供が、おれ様達を絶対見たはずの子供が、歯が生え替わる時期の舌っ足らずの声で、寝たふりをしてくれていた。
でも、そんなこと評議会の審査では関係がない。
見られた事に変わりはない。
でも。
おれ様は、息をゼイゼイ切らしながら、ソリを担いで走っている。葉巻は止めよう。この時ばかりはそう思う。
あのバカでかいモミの樹から見える町へ、この空の道を、おれ様達は何回走っただろう?
歯が全部生え替わり、すこしおませになって、初恋をして、失恋もして、ボスが一人の立派なママになった去年まで、おれ様達は毎年欠かさず、サンタしてきた。
おれ様達が配達を許されたのは、ボスの所だけだ。
だから、ルドルフとおれ様がトナカイとサンタであるためにも、絶対に届ける。
ボスは、自分の娘の初めてのクリスマスプレゼントにと、ブツをどうやら夏の終わり頃から探していたようだ。
おれ様達がそれを知ったのは、秋の終わりだったのは、単に下っ端だったからだ。
おれ様は、戻しそうになりながら、鼻水まみれの顔を後ろのソリの特等席に乗せてある、ホコリまみれのちっこい箱に向ける。
今でもはっきりと覚えている。
あの、小汚いちっこい箱の中には、ボスが「うさたん」と名付け呼んでいた、今のおれ様の顔とどっこいどっこいに汚くなった、ぬいぐるみが入っている。
おれ様達の記念すべき、最初のプレゼントだ。
普段プライドが高く、絶対に頭なんか下げることのないルドルフが、妖精に土下座までして作ってもらった、幸運を呼ぶ特注品だ。
ボスが自分で幸せを掴んだから、自分で仕事の終わりを悟り、ゴミになったナイスラビットでもある。
実はまだ半分以上も道のりがある。
やはり、ルドルフじゃないと上手にソリは引けないぜ。
まあ、そのうち武勇伝を聞かせに追い付くだろう。
ゆっくり行くさ。
クリスマスにはまだ早い。
<了>
お題提供。
○MAGさん「私の大事なもの」
○ABCさん「contact」
○幽さん「誓約」
2001年に書いたもの。継続しないとダメじゃん!俺。
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