77

発掘三題話

「leoN」





 ドドオンッ!!

 少し離れた場所から、バズーカ砲の着弾音、直後、この爆発音が届いた。

 流石はルドルフ、タフな相棒だぜ!

 おれ様はとっておきのキューバ葉巻を真っ赤なジャケットの内ポケットから取り出すと、ワイルドに端を食いちぎり、サングラスに映り込むジッポォの灯かりで優しく火を点ける。

 この<ワイルド&マイルド>がもてる男の普遍的条件って奴だ。

 覚えておきな!そこのボーヤ。

 葉巻をくわえたまま、おれ様は敵の陣地に単独で乗り込む。

 おっといけねえ、チームワークあってこそのおれ様達だ。ルドルフという、タフで陽気な助っ人がもう先に行って、ひと暴れもふた暴れもしている頃だ。奴のキックにはタイソンも泣き出すっていう、これはまあ、奴の話だが。

 ショットガンとウージーを両脇に抱えて、敵の秘密工場に乗り込んだ時には、ほぼおれ様達の圧勝だった。

 数で攻めて来た卑怯極まりない敵に対し、勇敢なおれ様の相棒ルドルフは、自慢の足技のみでこれを蹴散らした!!

 イカしたぜ!あれは本当に!!

 おれ様がスピルバーグだったら、絶対何千万ドル積んでも映画化の権利を買うだろう。

 サントラはメガデスで決まりだな。

 おれ様達の写真入りシリアルのパッケージデザインなんかも考えながら、おれ様達は、工場を例のブツを探して歩きまわる。



 思えば、あれは丁度秋の終わり頃だったと思う。

 おれ様達のボスから急な仕事の命令が降りた。

<私の大事なものを捜し出せ>

 それは、恐ろしい剣幕だった。

 それのあるだろう場所を調べて、やばい仕事だというのは直感した。が、だ。おれ様と相棒ルドルフはボスの望むものを届けるという、命がけの誓約を結んでいる。

 いや、ニュアンスが少し違うな。

 ボスの望むものを手に入れ、期日にきっかり届けるのがおれ様達の存在意義、難しくいうと「れ、れぞぉんでえぃとる」っちゅうわけだ。

 こうしてさりげなく見せる知性も、もてる男の普遍的条件の一つだぜ、ボーヤ。

 メモ、取ったか?



 それは、瓦礫に埋もれたちっこい箱の中にあった。

 何回も見た、見覚えのある、間違いなくボスのブツだ。

 おれ様とルドルフは顔を突き合わせて、ニヤッと笑った。これでこの厄介な仕事も終わりが見えてきた。

「そこまでだ!!」

 突然、おれ様達の背後から強烈なライトと、妙に乾いた軽い叫び声が聞こえた。

「武器を捨てて、両手を頭の後ろに組み、ゆっくりとこちらに振り向けぇっ!」

 ここは、おとなしく従っておいた方がいい。

 おれ様達は、それぞれ武器をそっと床に置く。

 おれ様は、ショットガンとウージー。

 ルドルフは、蹄鉄を。

 そして、ゆっくりと振り向く。

 見覚えのある連中だ。

「これはこれは、札つきのサンタとトナカイのコンビか。」

「けっ、黙れよ。おもちゃの兵隊風情がっ!!」

 ルドルフがたっぷりの唾を吐きかける。

 偶蹄目の唾液は威嚇時にも使われるので、それはもうたっぷり出る。

 前に、砂漠用にラクダに乗った時、ケンカになってひどい目にあったので、おれ様はトナカイのルドルフとは、なるべくよろしくやるように心がけている。

 ルドルフの唾液で、紙製の兵隊はばたばたと倒れる。

 しかし、嫌味なヒゲの隊長を含む、近衛兵風の一団はびくともしない。

「フンッ!我々超合金とその辺のゴミとを一緒にして欲しくはないな。」

 ヒゲの隊長がハンケチでのっぺりとした顔を拭きながら、ゆっくりと伸びきった腕をあげる。

 後ろの兵隊が鉄砲を構える。

 ルドルフが鼻をひくつかせ、急に青い顔になる。

「おいっ!連中のモノホンの火薬だぜ!?」

 うげっ!?マジかよ・・。

「ハッフハッフハッフ!最近はリアル指向でね。君達の持って来たような、水鉄砲やクラッカーは時代遅れなのだよ。」

 くっそー、おもちゃの風上にもおけない奴らだぜ!!

 おれ様はしっかりと、ブツの入った箱を抱える。

「おいおい。まさかそんなゴミのために、こんなバカな事をしたのかね?」

「んだとぉっ!?このちびヒゲっ!もういっぺん言ってみろ、コラァ!!?」

 ルドルフは若い頃、暴走トナカイだった。

「まったく。ここではそういった用済みの、おもちゃ、まあこれらを我々と同じ言葉で現すのは不快だけれどな、それら時代遅れのゴミ共を、破砕し分解し、新しいおもちゃ達の部品としてでも、使ってやろうというありがたい工場だというのに。

 これは、お前らサンタ評議会の許可も受けているんだぞ!?ただじゃ済まないぞ!?わかっているのか?」

「なんとか言ったらどうだ!?」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「おい・・」

「ああ・・」

 ちびヒゲ隊長の長ゼリフで、緊張感が切れていた兵隊をルドルフが一気に襲う。その隙に俺は約束の場所まで走る。

 暗闇の中、あちこちに体をぶつけながら、ようやく外に転げ出た。

 中からは、ルドルフの怒号と銃声が響く。

 ルドルフはタフな相棒だ。



 約束の場所はボスの棲む町が見渡せる丘。

 おあつらえ向きのバカでかいモミの樹がある。

 俺が見習いサンタで、ルドルフが仮免トナカイの時に、ボスに出会った。

 お互いに落第寸前で、これが最後のチャンスだった。だけど、そんな日に限って、ルドルフは風邪で鼻がまるで光らず、おれ様は相変わらずのソリ酔いで、最悪だった。

 それでも、ぎりぎりという状況だったからだろう、おれ様達は、なんとかかんとかノルマをこなしていった。そして、最後、という所で最大のミスを犯しちまった。

 見られた。サンタが子供に見られちまった。

 砂男の眠り砂を、ルドルフがくしゃみで飛ばした、とか、おれ様がついに我慢できずにトイレを拝借して吐いた、とか、色々原因はあったと思うが、もう、終わりだ。

「わあ!サンタさんっ!ホントにいたんだねっ!!?」

 これが、おれ様達サンタの死亡宣告だ。

 サンタと子供の直接のコンタクトはタブーだ。

 その時も、おれ様達はその言葉をなぜか静かに待った。ここまでやってダメだったら、もういいだろうと、正直そんな気持ちだった。



「・・・・・。」

ばふ。

「うん、むにゃむにゃ。」



 な、なんだ?その時何が起こったのか、おれ様達はしばらくわからなかった。



「あたしはねてるよぉ、すぅすぅ。」



 その子供が、おれ様達を絶対見たはずの子供が、歯が生え替わる時期の舌っ足らずの声で、寝たふりをしてくれていた。

 でも、そんなこと評議会の審査では関係がない。

 見られた事に変わりはない。

 でも。



 おれ様は、息をゼイゼイ切らしながら、ソリを担いで走っている。葉巻は止めよう。この時ばかりはそう思う。

 あのバカでかいモミの樹から見える町へ、この空の道を、おれ様達は何回走っただろう?

 歯が全部生え替わり、すこしおませになって、初恋をして、失恋もして、ボスが一人の立派なママになった去年まで、おれ様達は毎年欠かさず、サンタしてきた。

 おれ様達が配達を許されたのは、ボスの所だけだ。

 だから、ルドルフとおれ様がトナカイとサンタであるためにも、絶対に届ける。

 ボスは、自分の娘の初めてのクリスマスプレゼントにと、ブツをどうやら夏の終わり頃から探していたようだ。

 おれ様達がそれを知ったのは、秋の終わりだったのは、単に下っ端だったからだ。

 おれ様は、戻しそうになりながら、鼻水まみれの顔を後ろのソリの特等席に乗せてある、ホコリまみれのちっこい箱に向ける。

 今でもはっきりと覚えている。

 あの、小汚いちっこい箱の中には、ボスが「うさたん」と名付け呼んでいた、今のおれ様の顔とどっこいどっこいに汚くなった、ぬいぐるみが入っている。

 おれ様達の記念すべき、最初のプレゼントだ。

 普段プライドが高く、絶対に頭なんか下げることのないルドルフが、妖精に土下座までして作ってもらった、幸運を呼ぶ特注品だ。

 ボスが自分で幸せを掴んだから、自分で仕事の終わりを悟り、ゴミになったナイスラビットでもある。



 実はまだ半分以上も道のりがある。

 やはり、ルドルフじゃないと上手にソリは引けないぜ。

 まあ、そのうち武勇伝を聞かせに追い付くだろう。

 ゆっくり行くさ。

 クリスマスにはまだ早い。



<了>



お題提供。

○MAGさん「私の大事なもの」

○ABCさん「contact」

○幽さん「誓約」

2001年に書いたもの。継続しないとダメじゃん!俺。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]