84

世界樹の短文「今日のレイヴナズ2」


『高き深淵(みふち)に  全ては沈み

 朝の狭霧も  翡翠に滲む

 泣く事勿れ  愛しき君よ

 剣を抱き  我は旅立つ』

金鹿の酒場にリュートの音色が静かに流れる。
酒場の壁際で、名も知らぬバードが古いバラッドを歌っていた。
悲しげなメロディーが終わりを告げると、静かに拍手が沸き起こる。
軽く会釈をしたバードが人ごみに消えると、酒場はいつもの賑わいを思い出した。

「さーてカマカマのお陰で、今日のお財布には余裕があるので、後列の二人にこれを」
俺に骨ばった武器を突きつけられた二人は顔を見合わせてきょとんとする。
「これ?なに??」
レジーナがフォークで突付く。
「ボォーンメイスッ!攻撃力は+15だ!」
「+15ってショートソードと同じ…」
ヒーセ男爵がまじまじとボーンメイスと手持ちのショートソードを見比べる。
「重さでカバーするタイプか、これと同じで」
フェレスがハンドアックスをランタンにかざす。
「術式の節約って事にもなるのかな?」
カスカ師匠は案外乗り気でボーンメイスをこねくり回している。
「深部に着くまではなんとか節約しないと。
本当は獣避け買ったり、警戒歩行とか取ればいいんだろうけど」
「経験値とアイテム稼ぎもしなきゃねー」
レジーナが片眉を上げてしぶしぶ同意する。
厳しい戦いの中で、TPを一番消耗するのは彼女だろう。
「手下狼はなんとかイケルけど、まだボス見てないからな」
「フロストなんとか」
フェレスが肩をぐりんぐりん回しながら、戦いに思いを馳せる。
ヤバイ笑いがないぞ。
そんな、今日のレイヴナズ。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]