90

世界樹の短文「今日のレイヴナズ1」

俺はギルド”レイヴナズ”のレンジャー、ルストラム(ぬかるみ)
俺と事を起こすとぬかるみにはまるぜ!

「さてと」
金鹿亭に入るとすぐに、最近ようやく確保したいつものテーブルに仲間を見つけた。
夜も8時を回っていて、パブは冒険者たちで独特の賑わいが起こっている。
「今回の成果はざっと400enってところだ」
B3Fクラスの俺たちには結構な額だというのに、仲間たちの表情は浮かない。
というのも
「カマキリ…だな」
パラディンのヒーセ男爵が肩を落として、エールが半分ほど残っている角杯をテーブルに置いた。
「…アレは反則でしょう!?」
メディック(f)のレジーナが、手に料理の骨を握りながら力説する。
「私のTPじゃ追いつかないって!」
まあ、詳しい話は出来ないが、とんでもないFOEと出くわしたのだ。
大概のFOEは出会い頭とんでもないのだが。
「ヒーセ男爵の猛進逃走がなければ全滅だったよなー」
嫌な思い出、しかもついさっき。
一口だけエールを呑み込む。ちょっと苦い。
「次は、叩ッ斬る…」
静かに杯を重ねていた、ソードマン(f)のフェレスが据わった目で頼もしくも物騒な言葉を吐いた。
「今のところまともにダメージ与えられるのって、フェレスのパワークラッシュとカスカ師匠の術式くらいだもんなあ」
「足は速くないんだけどねー、あのカマキリ…」
ヒーセ男爵が、「正体不明」の多分干物をかじりながら思い出している。
最前線でフロントガードしながら防ぎまくったのだ。
ゆえに掴んでいる実感があるのだろう。
「術式の方は?有効属性とか。」
大人しくメガネのレンズを拭いていたアルケミスト(f)のカスカ師匠に振ってみる。
前世では男だったらしいのだが、転生する時に念が残ってしまって、「めがねっ娘」になったそうだ。
「あ、ワタシですか?うーん、まあ毒は効くし、今回全部試してみてワタシなりに有効打は見えてる感じなんで、あとはLVと装備次第じゃないですか」
結局地道に行くしかないのか。
「オマエは何をしていた?」
肩の激痛に振り返ると、すっかり出来上がったフェレスが鬼のような形相でナニかの骨を噛み砕いていた。
「いやいや、がんばってたって!
ファストでパーティーのAGIあげたり、トリックで相手の命中下げたりー」
「…でも、なんか目に見えてって程じゃないのよね」
レジーナがさらっと酷い事を云う。
確かに、有効打ってほどのダメージは与えられないし、逆転になるほどステータスUPもできてはいない、だけど!
「それじゃ、モグラから小さな骨を取り出してるのは誰だ?
蝶から複眼を取るのは?
柔らかい皮を剥ぐのは?
全部俺じゃないか!!
汚れ仕事は全部俺じゃないか!
なのに、ひどいやみんな!」
と、採掘のスキルを真っ先にとってしまった俺は叫んだ。

”それだけじゃん”

の視線を痛いくらいに感じながら。
ああ、早くショートボウが出来るとイイナァ。
明朝五時からアルマジロの皮を剥ぎに樹海に行きます。
そんな、今日のレイヴナズ。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]